メディチ・インパクト

本を読んでて良かった。こんなバケモノみたいな本に出会えたから。


この本はいかにして問題をとくかと同様、いかにしてアイディアを創り出すかということに尽きる。イノベーションを起こすような画期的なアイディアは偶然の要素が絡み合って生み出されるが、その偶然の要素は意識的にコントロールできるのだ。


本書は、アイディアとは異なる二つの分野の交差点で起きるとしている。異なる分野の情報の組み合わせは無数にあり、その組み合わせの中に輝くアイディアがあるのだ。ほとんどは価値の低い組み合わせであるが、アイディアはその多数の組み合わせの中から輝く組み合わせを見つけることに他ならない。

異なる分野の情報の組み合わせは簡単に組み合わせ爆発を起こす。例として、音楽のロックとクラシックの交差点が挙げられている。ロックとクラシック、それぞれ楽器、構成、ボーカルの種類の個数を組み合わせるとロックもクラシックも2400通りある。もしロックとクラシックの交差点に立ち、ロックとクラシックの組み合わせを自由に考えることができたなら組み合わせは2400 * 2400で576万通りの組み合わせができる。この576万という膨大な数字こそ、アイディアの源泉なのだ!


メディチインパクトとはメディチ・エフェクトからの造語である。メディチ・エフェクトとは様々な情報の交差点に立ちルネッサンスを引き起こしたと言われているメディチ家の繁栄のことを指す。メディチ家は銀行業で溜め込んだ資産を元に、科学者や哲学者、金融業者や画家や彫刻家などあらゆる分野の人達との交流を行った。その結果ルネッサンスを引き起こしたわけだが、これは15世紀の話だ。21世紀の今、メディチ家が成し得たことを誰もが出来うる環境が揃っている。あらゆる分野は発展し、人口も増え、インターネットのおかげで十分な量の情報を得ることができる。

時代が進むにつれて情報の量は増え、従って組み合わせの数や交差点の数も増えている。いかに意識的に交差点に立つか。交差点に立ち、あらゆる組み合わせを試す発想力も必要なのだ。一つの分野に篭っていると意識のバリアが発生し、創造性を損なっているとしている。この意識のバリアは「どうせ無理だから」を大量生産する。このバリアを取り除きあらゆる組み合わせを試さなければアイディアは産まれない。組み合わせが数え切れないくらいある今、個々のアイディアの良し悪しはもはやどうでも良い。ダメだったら次の組み合わせを試せば良いのだ。

過去のイノベーター達はいかにも1点集中で素晴らしいものを生み出したかのように見えるが、じっくり見てみるとそうではないことがわかる。イノベーターを観察することで得られる知見は一つ。組み合わせを試す事だ。


本書の良いところはアイディアを生み出す方法だけに留まらずアイディアの育て方や扱い方まで指南していることだ。アイディアの扱い方から考える効率のよいブレインストーミングは本書でこそ扱いが少ないが、そこら辺のビジネス書であれば十分なスペースを割いて記述するだけの価値がある。複数人で考えれば良いアイディアが出るというのは嘘なのだ。考えるのはあくまで個人。個人がアイディアを考え、その結果を複数人で合成し、育てた方が遥かに創造的な結果を生み出す。


今までアイディアは無駄に扱われてきた。我々は、アイディアを本当に吟味しているだろうか?アイディアを本当に試しているだろうか?
意識のバリアによってアイディアの吟味は薄れ、育てなかった。その結果試すアイディアも減った。輝くアイディアも日の目を見ずに雑多なものに埋もれてきた。これを本書では以下のように叱咤する。

アイディアを実行しないことこそ最大の失敗


もうアイディアを見て見ぬふりはやめよう。次々に試さなければ時間が無くなってしまう。

だって、組み合わせ爆発は世界中のあちこちで起きているのだから。

メディチ・インパクト (Harvard business school press)

メディチ・インパクト (Harvard business school press)