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理科系の作文技術

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

理科系の作文技術 (中公新書 (624))


なぜ学生の頃にちゃんと読まなかったんだ!


本書は理系文系に限らず、全く文書を書かないという稀な人を除いた全ての人は絶対に、必ず、なんとしても読むべきだ。

本書はタイトルにもある通り、理科系の人向けに書かれた本である。理科系の人が書く論文について、

  • どのような構成で
  • どのような章立てで
  • どのような文体で

書くべきかについて記してある。


しかし本書から学ぶべくところは論文の書き方ではなく、論理的な思考力である。以下のように論文に限った話ではない汎用的で強力な武器が記されているのだ。

  • どのように物事を観察するか
  • どのように考えをまとめるか
  • どのように伝えるか


言葉はあまりにも雑多なものが入り交じりやすいので雑多であることに気づかないことが多いのだが、事実と意見は別物だ。物事を観察することで得られた、私情を挟まない「事実」と、個人の感情が大いに入る「意見」を分別することがどれだけ重要か。理路整然とした日本語がどれだけわかりやすく、そして美しいか。


言うまでもなく、人間は論文だけでなくビジネスでの文書や普段の思考の場まで言葉に支配されている。言葉は母国語ならば学習コストを意識せず使えるようになっているため、日常生活では難しさや雑多さを感じることは少ない。だからこそ良い日本語を知らなければならないのだ。今後数十年毎日欠かさず使う言葉という道具の品質を高めることができたなら、死ぬまでにどれだけの恩恵に授かれることか。

いや、日本語に限った話ですらない。論理的な思考力というものは言語に縛られるものではなく人間本来が持つ能力のはずだ。言語は思考の表現のための道具であるが、思考の多くは言語によって行われていることは疑いようが無い。表現のための道具を知ることで思考が理路整然となり、論理的な思考が身につくのだ。

理科系の作文技術についての本というだけあるので本書自体文章に曖昧な箇所が無く読書中に困惑することが無い。約30年前に初版が出版されたので内容には若干の古さがあるものの、根幹を成す部分は30年程度では衰えない力を持っている。論文を書く人も書かない人も、論理的な思考力をつけるためには本書を読むことが非常に近道になると自信を持って言える。間違いない。


本書はなんとしても読むべきだ。10年後や20年後、いかにして問題をとくかのように印刷の品質が悪いというくだらない問題でこの名著が埋もれないことを祈る。

最後に、本書の一番魅力的な一文を引用する。

私は、わが愛する日本語は、事実や論理を冷徹に、明確につたえる能力を内蔵した言語だと信じている。