書評:永遠の0
- 作者: 百田尚樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/07/15
- メディア: 文庫
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もはや、衝撃。
本書の魅力は、そのリアルな描写。まるで著者がそのシーンを直接見て書き上げたかのような凄まじい熱気を感じるほどのリアリティ。本書に没頭しているその間は、まるで自分が戦地にいるのではないかという錯覚に陥るほど。ゼロ戦のエンジン音が聞こえ、瑞鶴や赤城が燃えて鉄が溶ける熱気が押し寄せ、撃墜された戦闘機が海面に叩きつけられる。圧倒的なまでのリアリティ。そして600ページというボリューム。
その比類なき文章力で人が死ぬ様をまざまざと、そして戦闘機乗りでありながら生きることに執着した男、宮部久蔵を描く。
戦時中宮部久蔵と同じ部隊にいた人達などを辿り、宮部の人物像を探る。宮部を知る人物たちにもまた彼等の人生があり、例外なく青春は戦争で埋め尽くされていた。戦争の描写もさることながら、宮部と彼らとの人間模様が実に面白い。本書は史実を元にしたフィクションであるが登場人物の言葉の重みや人間らしさを見るに、ノンフィクションとして読まされたら騙されるレベル。
笑いながら朝ごはんを一緒に食べた仲間が夕飯時にはいない。それが当たり前のラバウルにおいて生に執着する宮部は、みっともなくとも、美しい。そして何より、特攻兵が死んでいく悲劇。学生が特攻兵として飛行機の訓練を受け、特攻機に乗り込むも撃墜されていく。この真に狂気かつ悲劇を、前述したように脅威の文章力で書かれており、なんど涙腺崩壊したことか。そしてメンツのために殺される若い青年。軍人でありながら戦争を生きながらえたものの苦労。怒りがこみ上げる。
自分の祖父も戦争帰りの一人であることも本書を読んで昂ったことに関係があるだろう。祖父は、あのインパール作戦から帰ってきた人だった。激戦で、杜撰で、無謀なインパール作戦に行き、ジャングルで「ウサギがご馳走」という生活を経て、日本に帰ってきてからも「御国のために死ねなかった恥」で終戦後二年も家に帰るに帰れなかったという。自分が小学3年生の頃に亡くなった。
全くの偶然ではあるが、本書を読む数日前に祖父がインパール作戦の舞台ビルマ(現ミャンマー)から持ち帰ってきたという紙幣を祖母に見せてもらった。すると新たな事実が発覚。祖父がビルマから持ち帰ってきた紙幣3枚のうち、1枚はドル紙幣だった。これは祖母も初めて知った事実であった。当時敵国の紙幣を軍人が持つなんてことは考えられず、すぐ取り上げられるのではと祖母は言っていたが、事実としてドル紙幣はそこにあった。祖父は当時、どういう経路でドル紙幣を持ち帰ってきたのだろう?敵国と言えども紙幣の交換がどこか闇市場のようなところで行われて、祖父は記念にこっそり持ち帰ってきたのだろうか?どんな経緯で敵国の紙幣を手に入れたのだろう?憶測は止むことが無いが、祖父はもういない。今となっては知ることは不可能だ。
さて、本書の二番目の主人公と言っても過言ではない零戦。零戦を創り上げた男、堀越二郎。堀越二郎は本書でもその名が挙がっているが、近日彼を主人公にした映画が上映される。それも、スタジオジブリから。
生きねば。
風立ちぬ 公式サイト
これは見るしか無いだろう。
戦争を体験した人の数は年を追うごとに減り、零になる日も遠くない。零になる前に本書は読んでおかねばならぬ一冊だろう。叶わぬことではあるが、本書の読後、「祖父が生きていれば」と悔しさがこみ上げた。
自分と祖父の世代間で、戦争の記憶は消えてしまった。