Eric Sink on the Business of Software

起業家だけじゃない、普通のプログラマーなら読むべき。


本書は Eric Sink が自分の体験を元に企業の作り方のノウハウを伝授してくれる一冊だ。企業とはいっても大企業ではなく、本書ではマイクロISVを創るという視点で語られている。ISVとはIndependent Software Vendor, つまりマイクロISVは小さな独立系ソフトウェア会社のことを指す。


ギークがどのようにして独立してお金を稼ぐか?という問に対して著者Eric Sinkは笑えるくらいギークの考えを理解しながら要点を解説してくれている。「4章 ギークのためのファイナンス入門」なんて、章の始まりの文が「この章は退屈だ。」から始まるのだから。しかしながらEric Sinkが言うとおり、退屈でも知る必要がある。

ファイナンス入門以外にもギークが独立するにあたって必要な様々なことが書かれている。凄いハッカーと凄い社員は違うということ、プログラマーと開発者は違うということ、人の採用の仕方、製品の作り方、価格の付け方、マーケティングなどなどこれほど濃厚なノウハウがたった260ページに収まっている。変な例え話がちょっと多くてたまにわかりにくくなるのもこの軽妙な語り口とあわせてご愛嬌。

この本を読んでやっとわかった。俺はただのプログラマーで、開発者ではなかったんだ。ただコードを書いて動かすのが楽しいだけであって製品の成功のためにあらゆる面で協力する人ではなかった。仕様書は適当、テストコードも書こう書こうとは思うものの結局書かない。やっているのは新しい機能を追加するだけで、その仕事をこなして動けば自分が満足してしまうタイプなんだ。このあたりは耳を引っ張られて怒られているような気すらした。これじゃ子供って言われるわけだ。


本書に記載されている様々な指南は、実体験に基づいているだけあって地に足ついたものとなっている。特に経済の本では顕著なのだけど、本を読んでなるほどとは思うものの、現実とどこか離れている感が漂っているんだよね。単に知識がないからイメージができないだけなのかもしれないけど。

本書は起業家向けかと言うと決してそんなことはない。ソフトウェアで起業したい人にとって本書の豊富な経験談や指南は十分な価値を持っている。
ただ製品に新しい機能をつけることが価値だと考えやすいプログラマが、もっと上の経営者視点から物事を見ることができるようになるための本としても非常に優れていることは間違いない。むしろそっちの方が需要あるように思える。


プログラマ向けでこれほど経営者視点でまんべんなく物事が見れるようになるための本は今のところ本書以外に見当たらない。

Eric Sink on the Business of Software 革新的ソフトウェア企業の作り方

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