まとめて書籍レビュー

四ヶ月の休職をしてたっぷり時間があったわけだけど、不思議なもので、休職をする前は「休職でもして好きなだけ本を読みたい」と思っていたのだけどいざ休職すると本を読みたい欲なんてのは綺麗さっぱりなくなってしまって、すっかり本を読むペースが落ちてしまった。技術書は頭を使うからか、1冊も読んでいない。ビジネス書なんてのもさらさら読む気にならず、本が読める程度に症状が治まった頃からは主に小説を読んでいた。

というわけで、休職中に読んだ本から印象に残ってるのを抜き出してレビュー。

ノルウェイの森

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)


以前読んだことがあったのだけど、特に深い印象がなかったことと映画化でやけに Amazon がプッシュしてたから購入。

精神病で会社を休んで、田舎で療養している自分と直子が強くかぶって、以前読んだときとは全く別の本みたいだった。
直子が突然精神病になってサナトリウムで療養生活する様は、「ああ、俺もいつかこういう施設に行くのかな」なんて思ってた。精神を病んで「僕」の前から消えた直子が「僕」に対してどういう想いだったか、うまく伝えられない気持ちが痛いほど理解できて、心臓の奥に痒みみたいなものを感じた。

これを読んだ時、今よりも自殺願望が濃かった。本は読めたけど精神状態はそれほど良くなかった。だから、直子が療養生活を順調に送っているようで、パッと自殺してしまうシーンには感慨深いものがあった。「うん、やっぱり自殺するよなぁ」という納得もあったし、結局死に行き着くということに不安も感じた。
レイコさんが冗談で「ヨダレを垂らしながら地面を転げ回る」と言ってたけど冗談に聞こえなかった。

この直子が自殺する直前のシーン、最高に印象深い。自分の死が来るということを理解した者の幸福感。しかもそれを客観的な視点で、手に取るようにわかるくらい明確な表現がなされてる。こんな表現が出来るなんてやはり村上春樹は天才に違いない。精神病というものは大変危険なもので、俺自身、死が来ることを理解した時の、あるいは死が決定的になったときの覚悟を持ち、その者特有のぼんやりとした幸福感を味わっているような時期であったため死が身近だった。その分直子の行動にずいぶんとリアリティを感じ取れたのだと思う。


オビにあるように本書は「100%の恋愛小説」であって、そのせいか生きることについても印象が強い。光を強くすれば影も濃くなるように、死についてスポットライトを浴びせれば生の境界も明確になってくる。結果として、主人公やその他の人物が生への強い執着を持っているように見える。

再読してよかった。別の本みたいだ。

海辺のカフカ

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)


これも村上春樹の傑作。

珍しく主人公が15才の少年で、村上春樹ワールドの雰囲気と少年の青臭さがうまく溶け合っていると思う。青臭さを見事に表現しているという点ではライ麦畑で捕まえてと同じなのだけど、本書は主人公の田村カフカだけに止まらず登場人物全員がすごく魅力的。ネコと会話できるナカタさんとか、両性具有の大島さん。ポン引きしてるカーネルサンダース大佐などなど誰もが個性的で、その個性が破綻せず融合してカフカの物語に溶け込んでいく。

謎がスッキリ解明するわけでは無いけど不快感も無い。ナカタさんや佐伯さんの結末は、そういう運命だと決まっていたのだから。彼らが自信の運命を知っていたかどうかは定かではないが、自分に課せられた使命は知っていた。その使命を果たすことで世の中が進むのだ。

登場人物全員が、世の中の狂言回し的な存在。
村上春樹の中では世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドねじまき鳥クロニクルに次ぐ傑作だと思う。

伊豆の踊り子

伊豆の踊子 (新潮文庫)

伊豆の踊子 (新潮文庫)


文体に時代を感じ、読みにくさは否めないがそれも含めて美しい日本を描いている。静寂した中に佇む踊り子達がなんとも美しい。多くを語らずとも主人公の儚い心が見て取れる、さすがの名作。
こういう本は騒音とは無縁な静かな部屋で、出来れば和室で、冬景色でも見ながら読みたい一冊。スターバックスで読むなんてのはもっての外。

注文の多い料理店

注文の多い料理店 (新潮文庫)

注文の多い料理店 (新潮文庫)


昔読んだことはあったけどこれも改めて再読。
宮崎賢治も雰囲気を楽しむものだね。今更読んでも「別に・・・」という感想しかでなかった。

ストレンジデイズ

ストレンジ・デイズ (講談社文庫)

ストレンジ・デイズ (講談社文庫)


限りなく透明に近いブルー」が良かったので村上龍二冊目。ストーリー、雰囲気、展開、どれをとっても後味が悪い。しかも偶然というかなんというか、たまたま買った本なのに本書も主人公が精神病で休職中という設定だった。

恋愛感情の有無はともかく、主人公が惚れ込んだ女を世に送り出すために四苦八苦して、結局は資金繰りのために女は金持ちの爺さんの玩具にされる。その寝取られる感覚や児童ポルノの撮影シーン、これまた精神病で全く動けなくなる女性などなど世の中の臭気がこの本に集まってるみたいだ。

オチらしいオチも特になく、苦い感じがするだけで特に良さは感じられないブラックコーヒーみたいな本だった。

くじけないで

くじけないで

くじけないで


どうやら巷でブームになっているらしいので購入。
これは非常に良い。著者が90歳を超えているということもあり言葉一つ一つの重みが違う。
休職中は将来にあまり良い展望があると思っていなかったが本書を見て「俺が年寄りになったとき、こんな風に考えられたらいいな」って思った。

ブームになるだけの力は持っている。
良書。間違いなく。

魔王

魔王 (講談社文庫)

魔王 (講談社文庫)


初の伊坂幸太郎
文体が読みやすい。そして、「自分が念じれば、それを相手が必ず口に出す」という設定に惹かれた。
登場人物も少なくてわかりやすい。

ただ、設定のおもしろさの割りには設定を活かしきれてなかった感が強い。結局主人公はその能力をほとんど使ってないやん!と。
この設定でまた別の話書いて欲しい。

アヒルと鴨のコインロッカー

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)


「魔王」が良かったので次も伊坂幸太郎本。
最近読んだ小説の中では一番の面白さ。最後のどんでん返しもさることながら、主人公の椎名が
「主人公は僕以外の3人で、僕は脇役なのだ」と悟るところがこの小説の面白い点だと思う。
世の中にはそれぞれの人に色んな物語があって、自分は他人の物語のほんの脇役でしか無いことが多いのだ。

自分が他人の脇役でしかないと感じることについてはある種の儚さを覚えるが、少し見方を変えればそうでもない。
それだけ面白いストーリーが世の中には溢れているわけだから。


他にも休職中に何冊か読んだけど特に面白いところはなかったので割愛。