書評 - 新世界より

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

貴志祐介の最高傑作と言われる本書で、Amazon でも 77 件のレビューがついて平均 4.2 となかなか高評価である。

期待して読んだものの、久しぶりに読了後に本を床に投げつけたくなるような本だった。
kindle だったので壊れるのが惜しくて投げつけなかったが。


これは僕の中のクソ本オブザイヤー候補第一位。
良本のふりをしたクソ本は、ただのクソ本よりたちが悪い。


ざっくり解説すると、
・呪術が使える蛮族(といっても日本人の子孫という設定)が、
・奴隷にしてた巨大なネズミに反乱されて、
・呪術で一掃する、
というお話。

呪術という呼び名がついているものの中身は魔法と全く同じで、なぜ日本人が呪術を使えるようになったのかといった解説は無いが、まぁそれは良い。そういう世界だから。

でも、登場人物達があまりにも無能過ぎる行動を取っているのは腑に落ちない。
まず、悪鬼に対する対応がひどすぎて目も当てられない。

呪術が記憶を操作できるなら、悪鬼に愧死機構が効かない理由(ここは本書のラストを飾るキモなので伏せておく)を修正できたはずだ。クソ。

最後スクィーラに対して行ったように、本人の体感時間を操作できるなら、悪鬼に対しても操作でき、攻撃を抑えられたはずだ。クソ。

悪鬼を眠らせてしまえば愧死機構・攻撃抑制も働かず悪行を止められたはずだ。クソ。

悪鬼に備えて不浄猫をもっと用意しておくべき、というより、攻撃抑制や愧死機構が存在することを前提でそのシステムの弱点を改善する方法についてもっと検討しておくべき。


一言で言うなら、登場人物全員馬鹿。自らの命のためならもう少し思考を巡らせてもらいたい。


とにかく悪鬼に対する措置があまりに酷く、設定の雑さを感じずにはいられない。作者の中で、呪術は何ができて何ができないのか、攻撃抑制や愧死機構というルールはどこまで効くのか、その設定が浅はかだったと思わざるを得ない。

ミノシロモドキについても、何故図書館がミノシロモドキの形にならなければならなかったのか、何故バケネズミがミノシロモドキを使えるのか。そして最悪に酷い点は、機械を脅して認証をパスしてしまうシーン。そんなわけあるか!

また、これは自分の期待が大きかったという点もあるが、最後に東京に行った時にナウシカ的な、世界の生い立ちを知ることができるのかと期待してしまっていた。
日本人が数万人しか残っていないことや、ミノシロモドキやバケネズミがいる世界というあまりに現在とかけ離れた設定でありながら、現代の延長線上であるという世界だったからだ。

しかし結果的には何も解明されず、正直に言えば期待はずれであった。


これのどこが SF か。これのどこがサイエンス・フィクションか。ただのファンタジーではないか。
これが 2008年 SF 大賞受賞とは、SF 大賞の安さに泣けてくるし、怒りが沸いてくる。
本書が SF を名乗ることができるならドラえもんアンパンマンだって立派に SF だ。何故ドラえもんは SF 大賞を受賞していないのだろう?

冒頭でも述べたが、良書のふりをしたクソ本は、ただのクソ本よりたちが悪い。
多くの人を騙して時間を犠牲にするから。