書評:リングワールド

リングワールド (ハヤカワ文庫 SF (616))

リングワールド (ハヤカワ文庫 SF (616))


本書の魅力は、その舞台設定が全てであると言って過言ではない。タイトルがリングワールドである以上、「出落ち」感があるのではと思うかもしれないが、そんなことはなく、最後まで圧倒されるスケールである。





リングワールドは恒星を中心として一周ぐるり(!)とリボン状の大地で囲んだ世界である。リボンの横幅は 100 万マイル(およそ 160 万km)、大地として使える面積は地球のおよそ300万倍、リボンの横から大気が漏れ出さないようにする側壁は高さ 1600km という圧倒的を超える超圧倒的なスケールの世界である。リングワールド内では常に太陽が頭上にあり、太陽を囲うシールドによって人工的に作られる。そしてなにより、リングワールド上の大地に立つと地続きの、恒星を囲む巨大なアーチが見える。もう、これだけで垂涎モノ。

不思議なのは、地球外生命体にはまだ遭遇していないのにもかかわらず、ニーヴンの描く異星人は「らしく」見えること。臆病なパペッティア人、勇猛果敢なクジン人。彼等の見た目はともかく、その心理描写の異星人らしさといったら、本書をおいて他に無い。


実はこのリングワールド、Wikipediaにもあるように力学的に不安定であり、一度の災害で全滅する恐れを持っている。




大艦巨砲的な巨大構造物より、すこし小分けにしてHALO風構造体を複数作るという案はどうだろう。HALO 構造体とは、形状はリングワールドと同じだが形状はぐんと小さい惑星サイズ。1日で1回転し、夜の部分は自リングの影で作る。

巨大な一品モノ建築物より安価になりそうだし、恒星をぐるりと囲んだ配置にする以上複数配置できないリングワールドより、配置出来る箇所がぐんと増える HALO 構造体のほうが空間効率が良い。しかしこれらは副次的なメリットにすぎず、メインのメリットは別にある。小分けにすることで生まれる重要なメリット、それは、絶滅を防ぎやすくなること。現に本書にもリングワールドにはいくつも隕石が衝突しており、大地に穴が空いたら大気が全て流れでてしまうので一撃で全滅の可能性があるわけだ。同じように、殺人バクテリアの繁殖やリングワールドの劣化による破損など、考えられる災害に対しては小分けにする方法がよく効く。問題点としては、HALO 構造体の位置がこれまた安定しないと思われるので、自前で制御しなければならない。安定させるには公転軌道を巡回しなければならず、すると空間効率はリングワールドと同等かそれ以下になってしまう。ああ・・・やはり最終的にはダイソン球に到達するのだろうか。


さて、本書が刊行されたのはなんと40年前の1970年。インターネットどころかコンピュータさえ一般に普及していない時代。アポロ計画が進行中で月面着陸は果たしていたものの、スペースシャトルはまだ存在せず、もちろん ISS も存在しない。その時代に、これだけの世界を形創るニーヴンは全く脅威の才としかいいようがない。


本書や、名作と呼ばれる多数の SF 小説を読んで確信したことがある。
それは、ダイソン球やリングワールドは今は全く想像でしかなくとも、いずれ本当に創造出来るということ。
もちろんリングワールドに留まらない。これだけ豊かな想像力を持った人間が十分な技術を身につけたら、今の SF 小説にあるような想像を絶する技術に囲まれた世界が実現するに違いない。それが何千年後、何万年後だろうと、いずれ、必ず実現するだろう。


そう考えるだけで、とても幸福になれるのだから、やっぱり人間というものは想像以上に単純な生き物なのかもしれない。